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住職の日記

人生最後の「葬儀」という儀式に思うこと


儀式というと「形式ばったことはキライなんです」という方もいるかもしれません。
最近の日本では葬儀だけでなく、結婚式を挙げないカップルも増えていますよね。

これは価値観の多様化の影響、そして長引く不況で直接生活に関わらない「儀式」のコスト削減を迫られていることも無縁ではないでしょう。

しかし、ヒトは長い歴史の中でさまざまな「儀式」を行ってきました。

なぜヒトは「儀式」をするのか?

なぜ、ヒトは儀式を大切に行ってきたのでしょうか?

一条真也『儀式論』によると

人生は不安の連続である。成人するにしても、結婚するにしても、老いていくにしても、未知の生活は常に人を不安にさせる。

中でも最大の精神的危機は、親しい人の死である。死別は、否応なく遺族を心神喪失状態のまま愛する人の欠けた世界に放り込む。悲哀と執着は、容易に遺族の心を破壊してしまう。しかし、「心が動揺し、不安や矛盾を抱えているときの心には、儀式のようなまとまった『かたち』を与えてあげることで不安が癒されることがある」

一条真也 著『儀式論』

という説を述べています。

ご存知のように葬儀には、手順があります。
粛々と執り行うことで心のよりどころとなり、大切な人との永遠の別離を強制的に体感させることで、死を現実として受け入れるのを助けるという側面があります。

「手間がかかるから」
「お金も時間もかかるから」

という理由で葬儀という儀式を行わないでいると、死を受け入れられなかったり、死の衝撃を引きずり続けることになるかもしれません。

私は「人生に区切りをつける」という意味も、亡くなった方にとっても遺される人たちにとっても葬儀は大切な儀式であると考えています。

浄土宗の葬儀の流れ

儀式には意味があり、形式があります。
「葬儀の間、お坊さんはなにをやっているのか?」と疑問に思ったことはありませんか?
お葬式は葬儀会社や僧侶が中心になり、進んでいくため一つひとつの儀式の意味を知らない方も多いかもしれません。

ここでは、浄土宗の葬儀を順を追って説明してみましょう。
寺院や地方によって多少のちがいがありますので、あくまで私が勤めている内容を一例としてご紹介します。

1 枕経(まくらぎょう)

亡くなられてから初めてのお経です。むかしは、臨終間際の方が平穏な心で浄土へ旅経つために、枕元でお経を読みました。現在では、亡くなった後で枕経を行うケースがほとんどです。

お経で故人をお導き下さる仏さまがたをお迎えし、故人をお守り頂きます。

読経の後は、ご家族から故人についての様々なお話をうかがいます。その方にふさわしい法名(戒名)が授与出来るよう生前の人となりやエピソードを尋ね、参考とします。

※浄土宗では戒名のことを「法名」と言います。

2 お通夜

読経の前半部分で、故人に仏弟子とおなり頂く一連の儀式をつとめ終え、仏弟子としての証しである法名をお授けします。ちなみに法名には、次のような字(語句)を盛り込みます。

  • 仏教の教えにちなんだ文字
  • このような仏道を歩んでほしいといった僧侶としての願いを込めた文字
  • 故人の人柄、業績を表す文字


もともとの名前(俗名)に使われている文字は、入れる場合と入れない場合があります。
漢字の構成や、音読の響きなどを考慮しながら戒名を決めていきます。

戒名をお授けしたあとは、仏様=阿弥陀仏のまことのお姿を観る方法を故人にお伝えするお経や阿弥陀仏の誓(ちかい)に関するお経を上げます。

さらに、お通夜にご参列の方々とお念仏を唱和して、安らかなお旅立ちのためにその功徳を捧げます。

読経後の法話では、お念仏を称えて故人をお送りすることの意味を伝え、法名をお授けし意味などについてのお話をする場合もあります。

このようにお通夜はあの世への旅立ちの支度を整えるための儀式になっています。

3 葬儀式

葬儀式では「引導」儀式が中心となります。浄土宗の引導では阿弥陀仏や観音・勢至菩薩、諸菩薩をお迎えし、故人を極楽浄土へとお導きいただき、往生していただく為の儀式です。

ご参列のいただいているご遺族、ご親族の皆様には、故人の為にお念仏をお称えいただきご焼香をして頂きます。

よく、ご焼香の回数についての質問をいただきますが浄土宗では一~三回と皆様にお任せするようになっており、参列者が多い場合は「一回、ゆっくりと、丁寧に心を込めて」と覚えておいて頂ければよいでしょう。

以上が葬儀の大まかな流れになります。

ご存知のように、浄土宗はお念仏を大切にする宗派です。私たち僧侶はそれぞれに意味のある儀式を行っていますが、ご遺族やご参列の方は「お念仏をもってお送りする」ということを念頭に、心をこめてご唱和いただければと思います。

4 予修法要

「予修」とはあらかじめ勤めると言う意味があります。

宮城では本来、七日ごとに勤めていた追善法要を家族や親族が集う葬儀の日に初七日~七七日忌(四十九日忌)、百ヶ日忌と三ヶ月先まで予め修める(勤める)ことが一般的でありますので、葬儀式の後に別途法要を行います。

これは、参列いただいた皆様のために行われる意味合いが強く「追善供養はしなくていいんだ!」と言う意味では決してありません。

七七日忌(四十九日)は、大切な忌日でありますので法要を行い、お念仏の功徳を回向し故人さまに追善供養を行います。

また、新しく作っていただいた本位牌に開眼法要を合わせて行います。お墓がある方はこの日に納骨を行うことも多い節目の日です。

葬儀という「儀式」を大切に

ご紹介したように、それぞれのシーンで読むお経にはさまざまな意味が込められています。
最近では、枕教やお通夜を省略した「一日葬」や葬儀を省略し火葬炉の前でだけ読経を行う「直葬」という形式も増えています。

亡くなった方の希望であったり、ご遺族のご都合もあるため省略された葬儀でも、私たち僧侶は心をこめてお勤めしています。

しかし、本音を言うならば伝統的な形式でしっかりと見送って差し上げたいと思っております。

なんでも「合理的」であることをよしとしたり、「コストパフォーマンス」を重視するのは時代の流れかもしれません。

しかし、故人にとっても遺される人にとっても人生の節目となる葬儀は、合理性やコスパ重視とは別の考え方をしていただければよいなと思っています。